【退去立会トラブル集】ガイドラインの原状回復義務を超えた特約はどこまで有効なのか? 読み込まれました

2024/8/8

    【退去立会トラブル集】ガイドラインの原状回復義務を超えた特約はどこまで有効なのか?

    不動産管理業界において入居者とのトラブルはつきものです。

    先日、不動産管理会社のAさんより次のようなご相談がありました。

    Aさん「退去の際に、ハウスクリーニング代について賃借人とトラブルになってしまいました。契約書の特約ページには、ちゃんと【退去時のハウスクリーニング代は、一律30,000円税別を賃借人負担とする。】と記載して押印をもらっていました。賃借人の言い分では、特約が無効だと言うのですが、請求はできないのでしょうか?」

    ハウスクリーニング代において、原状回復のガイドラインでは賃貸人負担とされているにもかかわらず、慣習的に賃借人負担とされることが多いです。2017年に改正された民法には次のような記述があります。

    (契約の締結及び内容の自由)
    第521条
    1. 何人も、法令に特別の定めがある場合を除き、契約をするかどうかを自由に決定することができる。

    2. 契約の当事者は、法令の制限内において、契約の内容を自由に決定することができる。

    これは「契約自由の原則」と呼ばれ、個人や企業が自由に契約を結ぶ権利を有し、契約の内容や相手方を自らの意思で決定できるという法律上の基本原則です。

    この「契約自由の原則」「国土交通省のガイドライン」をどのように考えればよいかを解説します。

    国土交通省の見解

    本件のトラブルは実は非常に多く、国土交通省は下記のように見解を公開しています。

    (「原状回復をめぐるトラブルとガイドライン」(再改訂版)のQ&A原文を転記)

    Q3 賃貸借契約(契約更新を含む)では、借主に不利な特約でもすべて有効なのでしょうか。

    A 賃借人に不利な特約は、賃借人がその内容を理解し、契約内容とすることに合意していなければ有効とはいえないと解されています。
    ⇒⇒ 第1章 1) 2(6頁~)参照

    建物の賃貸借契約は、借地借家法の適用があるのが原則であり、借地借家法が定める事項については、借地借家法の規定と異なる合意を規定しても、借主に不利な特約として無効となるものもあります。 また、消費者契約法は信義誠実の原則に反し、消費者の利益を一方的に害するものは無効と規定しています。

    しかし、このような強行規定に反しない限り、契約自由の原則により、合意された契約内容は有効となり、賃借人に不利な特約がすべて無効になるわけでもありません。もっとも、賃借人に不利な特約を契約内容とする場合には、賃借人がその内容を理解し、それを契約内容とすることに合意しているといえるのでなければ成立しているとは言えません。また成立しても、賃借人にとって不利な特約である場合にはそれが有効であるとは限りません。

    原状回復に関する賃借人に不利な内容の特約は、近年の(最高裁の)判例も踏まえ、次のような用件を満たしておく必要があると解されます。
    [1] 特約の必要性があり、かつ、暴利的でないなどの客観的、合理的理由が存在すること
    [2] 賃借人が特約によって通常の原状回復義務を超えた修繕等の義務を負うことについて認識していること
    [3] 賃借人が特約による義務負担の意思表示をしていること

    このとおり、いくら「契約自由の原則」があるとはいえ、ガイドラインに記載の原状回復義務を超えて負担させる場合には、上記の[1]~[3]の要件は満たしておく必要がある、と解釈しています。

    [1]については、暴利的ではない、客観的、合理的である、とはどういうことなのかを理解することが重要です。
    [2][3]について、賃貸借契約書の特約事項として記載し、十分に説明することが必要です。

    (東京地方裁判所判決平成21年9月18日 RETIOより転載)
    <特約>(契約締結:平成19年5月)
    ・賃借人がハウスクリーニング費用2万6250 円を負担する旨の特約

    <判旨>
    (1) 清掃費用負担特約の成否

    本件契約書や賃貸住宅紛争防止条例に基づく説明書に、契約終了時にハウスクリーニング費用2万5000円(消費税別)を賃貸人に支払う旨の記載があること

    契約締結の仲介業者が、本件賃貸借契約締結に当たって、契約終了時にハウスクリーニング費用2万5000円(消費税別)の支払を要する旨を口頭で説明したこと

    「ハウスクリーニング」という文言は、一般に、専門業者による住宅の清掃作業を意味するということができ、本件契約書等の記載によれば、ハウスクリーニングの内容として、個別具体的な清掃内容までの特定がないとしても、本件貸室を対象として、料金約2万5000円程度の専門業者による清掃を行うことが明らかであるということができることから、本件賃貸借契約においては、契約終了時に、本件貸室の汚損の有無及び程度を問わず、控訴人が専門業者による清掃を実施し、被控訴人は、その費用として2万5000円(消費税別)を負担する旨の特約が明確に合意されているものということができ、本件賃貸借契約において清掃費用負担特約の合意が成立しているというべきである、とした。

    (2) 消費者契約法10条該当性

    東京都が本件ガイドラインに関連して策定したガイドラインには、退去時のハウスクリーニング費用は、借主が通常の清掃(具体的には、ゴミの撤去、掃き掃除、拭き掃除、水回り、換気扇、レンジ回りの油汚れの除去等)を実施している場合は、賃貸人の負担とするのが妥当である旨の記載があることが認められるところ、清掃費用負担特約は、被控訴人に対して本件貸室の汚損の有無及び程度にかかわらず2万6250円の負担を求めるものであるから、被控訴人にとって不利益な面があることは否定できない。

    しかしながら、本件賃貸借契約において清掃費用負担特約は明確に合意されていること、被控訴人にとって、退去時に通常の清掃を免れることができる面もあること、その金額も、賃料月額5万6000円の半額以下であり、また、ユニットバス付きワンルームである本件貸室の専門業者による清掃費用として相応な範囲のものといえることからすれば、清掃費用負担特約が、被控訴人の利益を一方的に害するとまでいうことはできない。
    したがって、この点に関する被控訴人の主張は、採用することができない、とした。

    このような裁判の判例を見ると、ハウスクリーニング特約は、前述した要件を満たしている場合に限り有効と考えらえれることが多いでしょう。

    実際に賃貸借契約書を作成するときは、専門家の助言を受けながら作成し、退去時にトラブルがないようにしっかりと契約時に説明することが必要です。

     

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